終電にて


『八本足の蝶』(ポプラ社)より

二〇〇一年六月二六日(火)
 きみは本をつきつける。「この本、もうあと読みたくないよ。博士はきっと最後に死んでしまうんだもん」
「わたしを失いたくないか?泣かせるね」
「最後に死ぬんでしょう、ねえ?あなたは火の中で焼け死んで、ランサム船長はタラーを残して行ってしまうんだ」
デス博士は微笑する。「だけど、また本を最初から読みはじめれば、みんな帰ってくるんだよ。ゴロも、獣人も」
「ほんと?」
「ほんとうだとも」彼は立ちあがり、きみの髪をもみくしゃにする。「きみだってそうなんだ、タッキー。まだ小さいから理解できないかもしれないが、きみだって同じなんだよ」
ジーン・ウルフ「デス博士の島その他の物語」『20世紀SF④1970年代 接続された女伊藤典夫 河出文庫

私を読んでいるあなた、
私はかつて私を創造しつづけるあなたを憎んでいました。
でも、あなたは創造者ではなかったのかもしれない。
一人の読者でしかなかったのかもしれない。
私を読んでいるあなた。
私が時折あなたに合図を送っていることに気がついていますか?
くっきりしたBBBの文字が目についても、あなたはどうしようもないのでしょう。
読まれている私のように、読んでいるあなたもなすすべがないのでしょう。


この本を読み始めたら眠れなくなりました。